アシカ小屋

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空港運営の民営化とは何ぞやという話

空港運営を民間委託、法が成立 収支改善、増便目指す - 47NEWS(よんななニュース) http://www.47news.jp/CN/201306/CN2013061901001231.html

 

 

着陸料収入が中心で経営が厳しい空港の本体事業に加え、収益性の高い空港ビルや駐車場をセットで委託し」の部分がやや分かりにくいのかなーと思います。

以前友人に空港運営の話をした際も、「滑走路は役所の管理なのにターミナルビルは民間???全部公務員じゃないの?え、じゃあ管制官は?」という疑問を持ったようなので、2回に分けて空港運営民営化法についてお話ができればと思います。

まず前半は、空港収入の構造について。

 

(1)空港の収入源

 空港は主に、航空機が離着陸することによって得られる着陸料等(ここでは、駐機料なども含めた広義の「着陸料」とします)と、ターミナルビルの収入によって成り立っています。前者はいわゆる「下もの」後者は「上もの」と呼ばれることもあります。

 着陸料は、着陸する航空機の重さや騒音値などによって計算され、航空会社等に請求されます。この着陸料は空港によって異なり、一般的には地方の空港では安く設定され、大規模空港では高額になります。

(正確に言えば、国が直接管理している空港の料金は一律で、そこから空港ごとにいろいろ割引を行ってごにょごにょという話なのですが、その話はおいておきます)

 

 

 一方、ターミナルビル収入(上もの)は、レストランや物販店等からのテナント料、航空会社が使用するカウンター、ラウンジ等のテナント料、そして各種施設(案内放送設備や搭乗橋)の使用料などから成り立っているのです。

 余談ですが、LCCのカウンターは非常に簡素なつくりとなっており、搭乗時も搭乗橋からではなく、タラップを用いて航空機に乗り込む場合がほとんどです(福岡と新千歳は搭乗橋を使うことも)。これらは、空港ターミナルの施設を使わないことで極力賃料・施設使用料を支払わないようにするためです。

 昨年、関空や那覇にLCC専用ターミナルの供用が開始されました。ニュース等で映像をご覧になった方もおられるでしょうが、まるで倉庫を改修しただけかのような簡素な造り。

例えばこんなの↓

Reading on Aviation Wire - 全日空、日本初のLCCターミナル公開 沖縄の貨物施設活用 http://www.aviationwire.jp/archives/10419

既存のターミナル施設の使用料では高額であるため、簡素な造りのターミナルを使用してもらう。そうすることでLCC側に安価な使用料を提示することができ、より多くの路線を就航させようということなのでしょう。

 

 

(2)上もの収入と下もの収入の懐は違う

 一般的には、着陸料を引き下げることによって、航空会社による増便や新規路線就航が期待されます。増便等により利用客が増えればそのぶん、ターミナル内の飲食店や物販店での収益が上がる。下ものである着陸料を引き下げることで増便や新規路線就航を促し、それによってターミナル利用客を増やして、上ものであるターミナルビル収入を増やす。こうしたサイクルによって空港はより活性化する…という感じです。

 

 しかしながら、日本においてそのようなサイクルが構造上機能しているのは成田、関空、中部の3空港のみとなっています。この3空港は「株式会社管理空港」といわれ、空港の滑走路や保安設備、そしてターミナルビル運営まで全て1つの会社で行っています。それぞれ、成田国際空港株式会社、新関西国際空港株式会社、中部国際空港株式会社です。

 一方、羽田や新千歳、福岡等その他の空港は、滑走路や保安設備等は国または地方自治体が管理運営し、ターミナルビルは民間会社が、空港所有者である国または地方自治体から土地を借り上げる形で運営しています。ターミナルビルと空港本体とでは運営主体が異なるというわけです。羽田は日本空港ビルデング株式会社、新千歳は北海道空港株式会社、福岡は福岡空港ビルディング株式会社という社名です。

 

 ここで、本記事冒頭で述べた空港収入について思い出していただきたいです。ひとつの空港の収入源として、着陸料とターミナルビル収入が二本柱で存在しています。さらに、先ほど言及した通り、下ものを値下げすることで上ものの収益を強化することができるともお話ししました。

 しかし、日本のほとんどの空港は、下ものの設置主体と上ものの設置主体が異なる。つまり、入ってきたお金の行き先がまったく違うのです。

 たとえば全国に約20ある国管理空港の場合、下もの(着陸料収入)は国(社会資本整備事業特別会計)へ、上もの(ターミナル収入)はターミナルビル会社へ収入が入ります。前者は行政、後者は民間企業です。となると、先ほどお話したような「着陸料を下げて飛行機どんどん来させて、ターミナル収入を上げる」みたいなことは到底成り立ちようがありません。

 

 これが、日本の空港のひとつの欠陥であると僕自身は思っています。

 さらに言いますと、着陸料収入は空港ごとにやり繰りをしているわけではなく、社会資本整備事業特別会計(旧:空港整備特別会計)にプールされて、全国の空港設置・整備に利用されます。それで何が起こっているのか、簡単に言えば、大黒字空港の収益で、赤字空港のメンテナンスや地方空港の設置が行われている……というわけです。根の深い話なので、ここでは取り扱いませんが。。

 

 さて、さすがにこれはあかんだろと、空港業界も流れが変わりつつあります。空を飛ぶエアラインがオープンスカイの荒波に揉まれようとする中、下で支えるエアポートも激変の兆しが見えています。
 それが、今回成立した「民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律案」です。衆院解散・総選挙で一旦廃案になったものですが、今国会で再提出され、可決、成立しました。
 
 続きは次回。